
意外に思われるかもしれませんが、ボタンとクリーニングの間には永遠の課題が静かに横たわっているのです。
ボタンによって衣類はそのイメージを替えます。
ピーコートの錨ボタンや、ネイビーのブレザーに金のボタンなどは定番中の定番。
このボタンがあるだけで、服の表情がピシッと決まります。
樹脂で凝ったデザインがされた、ブローチのようなものもあります。
衣類にボタンは欠かせない……。
たぶん。
ひとくちにボタンと言ってしまいましたが、素材もデザインも様々です。
価格も侮れない。
それをクリーニング店が選ぶことはできません。
だからクリーニング店としては、こちらからおもねってボタンに順応してゆくしかないのです。
主従の関係が逆転しているようで悔しいけれど、しかたない。
ボタンの素材としては、ポリエステル、ナイロン、ラクト、尿素、金属、角、貝、竹など多岐にわたります。
サイズもバラバラ、デザインもいろいろ。
クリーニング作業をする前に衣類を手に取り、ボタンをチェックします。
孫氏の兵法にもあります。
敵を知り己を知れば百戦危うからず。
貝ボタンは壊れやすいですし、貼り合わせたデザインのボタンは、剥がれてしまう恐れがあります。
デザインに凝ったものほど注意が必要なのはもちろんです。
技術の未熟な輸入品には、着色が悪く、洗うと色が出てしまう物さえある。
壊れやすいもの、傷の付きそうなものはアルミ箔や専用のカバーを付けて洗います。
それでも危なそうなボタンは、取り外して保管しておいて、クリーニングが終わった後につけてお返しするということになります。
大丈夫かなって油断してはいけません。
後悔先に立たず。
その一瞬が死を招く。ちがうか……
付け糸も弱っていないか、気を配らないといけません。
もし1個でも落ちてしまったら、大変なことになります。
1つくらいというわけにゆきません。
なくなったのとまったく同じボタンを買ってくるというのは、ほとんど不可能です。
服にたくさんついているボタンを一個だけ違うボタンにするというわけにもいかず、付け替えるなら全部交換という事態に至ります。
そこで、ボタン交換はかなり高くつくというお話になるのです。
話は変わりますが、服をちょっとイメチェンする裏技についてお話します。
買ったばかりのお洋服でも、ボタンを高級なものにすると、一気に服の高級感が出たりします。
飽きてしまったジャケットやコートのボタンを思い切って、全部新しいボタンと換えてしまう、という荒療治もあります。
お洋服の表情が代わって、また新たな気持ちでその服と付き合えることになります。
意外と面白いのが、ボタンの付け糸だけ変えるという方法。
白いボタンをピンクの付け糸にするとか、黒いボタンに黄色い付け糸を使ってみるとか。
お金もかからないし、遊び心が生まれて楽しいですよ。
若い人だけではなく、おしゃれ心のある壮年の皆さんにもお試しいただきたいテクニックです。
まだまだ、語りたいボタンの世界。
ボタンにも気を遣うクリーニング屋さんのお話でした。